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IP(7)
IP(7) Linux Programmer's Manual IP(7)

名前

ip - Linux IPv4 プロトコルの実装

書式

#include <sys/socket.h>
 
#include <netinet/in.h>
 
#include <netinet/ip.h> /* 上記のスーパーセット */
 
tcp_socket = socket(AF_INET, SOCK_STREAM, 0);
 
udp_socket = socket(AF_INET, SOCK_DGRAM, 0);
 
raw_socket = socket(AF_INET, SOCK_RAW, protocol );

説明

Linux は RFC 791 と RFC 1122 で記述されている Internet Protocol, version 4 を実装している。 ip には RFC 1112 に準拠した level 2 マルチキャストの実装が含まれている。またパケットフィルタ機能を含む IP ルーターも実装されている。

プログラミング・インターフェースは BSD ソケットと互換である。ソケットに関するより詳細な情報は socket(7) を参照のこと。

IP ソケットは、 socket(2) 関数を socket(AF_INET, socket_type, protocol) のように呼び出すことで生成される。指定できるソケットタイプは 3 つあり、 tcp(7) ソケットをオープンする場合 SOCK_STREAMudp(7) ソケットをオープンする場合 SOCK_DGRAM、 IP プロトコルに直接アクセスするために raw(7) ソケットをオープンする場合には SOCK_RAW である。 protocol は送受信される IP ヘッダに書かれる IP プロトコルである。指定できる値は、 TCP ソケットには 0 か IPPROTO_TCP、 UDP ソケットには 0 か IPPROTO_UDP に限られる。 SOCK_RAW に対しては、 RFC 1700 で定義されている有効な IANA IP プロトコルを、割り当てられている番号で指定することができる。

When a process wants to receive new incoming packets or connections, it should bind a socket to a local interface address using bind(2). In this case, only one IP socket may be bound to any given local (address, port) pair. When INADDR_ANY is specified in the bind call, the socket will be bound to all local interfaces. When listen(2) is called on an unbound socket, the socket is automatically bound to a random free port with the local address set to INADDR_ANY. When connect(2) is called on an unbound socket, the socket is automatically bound to a random free port or to a usable shared port with the local address set to INADDR_ANY.

 

SO_REUSEADDR フラグがセットされていない場合には、バインドされていた TCP ローカルソケットアドレスはクローズされた後しばらくの間使えなくなる。 SO_REUSEADDR フラグを使うと TCP の信頼性を低下させるので、使うときには注意が必要である。

アドレスのフォーマット

IP ソケットアドレスは、 IP インターフェースアドレスと 16ビットのポート番号の組み合わせで定義される。 IP プロトコルそのものはポート番号を扱わない。ポート番号は、 udp(7) や tcp(7) といった、上位のプロトコルで実装される。 raw ソケットでは、 sin_port が IP プロトコルにセットされる。



struct sockaddr_in {
sa_family_t sin_family; /* address family: AF_INET */
in_port_t sin_port; /* port in network byte order */
struct in_addr sin_addr; /* internet address */
};


/* Internet address. */
struct in_addr {
uint32_t s_addr; /* address in network byte order */
};

sin_familiy には常に AF_INET をセットする。これは必須である。 Linux 2.2 では、このセットを忘れるとほとんどのネットワーク関数は EINVAL を返すようになっている。 sin_port にはポート番号をネットワークバイトオーダーで指定する。 1024 未満のポート番号は 特権ポート (privileged ports) と呼ばれる ( 予約ポート (reserved ports) とも時々呼ばれる)。特権プロセス ( CAP_NET_BIND_SERVICE ケーパビリティを持つプロセス) 以外のプロセスは、これらのポートには bind(2) できない。 IPv4 プロトコルそのものにはポートに関する概念がない。ポートが実装されるのは、 tcp(7) や udp(7) といった、上位のプロトコルにおいてのみである。

sin_addr は IP ホストアドレスである。 struct in_addrs_addr メンバには、ホストのインターフェースアドレスをネットワークバイトオーダーで指定する。 in_addr は、 INADDR_* の一つ (例えば INADDR_ANY) を代入する、ライブラリ関数 inet_aton(3), inet_addr(3), inet_makeaddr(3) を用いる、あるいは名前解決機構 (name resolver) を直接用いる、のどれかで設定すべきである。 ( gethostbyname(3) を見よ)。

 

IPv4 アドレスには、ユニキャストアドレス、ブロードキャストアドレス、マルチキャストアドレスがある。ユニキャストアドレスは、あるホストの一つのアドレスを指定する。ブロードキャストアドレスは、あるネットワーク上の全てのホストを指定する。マルチキャストアドレスは、マルチキャストグループに所属する全てのホストを指定する。ブロードキャストアドレスへのデータグラムは、 SO_BROADCAST ソケットフラグがセットされていないと送信・受信できない。現在の実装では、接続指向のソケットにはユニキャストアドレスしか使えない。

 

アドレスとポートは常にネットワークバイトオーダーで格納されることに注意せよ。具体的には、ポートを指定する数値には htons(3) を呼び出す必要がある。標準ライブラリにあるアドレス/ポート操作関数はすべてネットワークバイトオーダーで動作する。

 

特別なアドレスがいくつか存在する: INADDR_LOOPBACK(127.0.0.1) は loopback デバイスを通して常にローカルなホストを参照する。 INADDR_ANY(0.0.0.0) は任意のアドレスを意味し、バインド用である。 INADDR_BROADCAST(255.255.255.255) は任意のホストを意味し、歴史的理由から、バインドの際には INADDR_ANY と同じ効果になる。

ソケットオプション

IP にはプロトコル固有のソケットオプションがいくつか存在し、 setsockopt(2) で設定が、 getsockopt(2) で取得ができる。 IP のソケットオプションレベルは IPPROTO_IP である。ブール整数値のフラグでは、 0 は偽、それ以外は真を意味する。
IP_ADD_MEMBERSHIP (Linux 1.2 以降)
マルチキャストグループに参加する。引き数は ip_mreqn 構造体である。
 


struct ip_mreqn {
struct in_addr imr_multiaddr; /* IP multicast group
address */
struct in_addr imr_address; /* IP address of local
interface */
int imr_ifindex; /* interface index */
};

 
imr_multiaddr には、アプリケーションが参加または撤退したいマルチキャストグループのアドレスが入る。指定するアドレスは有効なマルチキャストアドレスでなければならない (さもなければ setsockopt(2) がエラー EINVAL で失敗する)。 imr_address はシステムがマルチキャストグループに参加する際に用いるローカルなインターフェースのアドレスである。これが INADDR_ANY であった場合には、適切なインターフェースがシステムによって選択される。 imr_ifindeximr_multiaddr グループに参加/撤退するインターフェースの interface index である。どのインターフェースでもよい場合は 0 にする。
ip_mreqn 構造体は Linux 2.2 以降でのみ利用可能である。互換性のため、古い ip_mreq 構造体 (Linux 1.2 以降で存在する) もまだサポートされている。 ip_mreqn との違いは、 imr_ifindex フィールドを含まないことだけである。 setsockopt(2) でのみ使える。
IP_ADD_SOURCE_MEMBERSHIP (Linux 2.4.22 以降 / 2.5.68 以降)
Join a multicast group and allow receiving data only from a specified source. Argument is an ip_mreq_source structure.
 


struct ip_mreq_source {
struct in_addr imr_multiaddr; /* IP multicast group
address */
struct in_addr imr_interface; /* IP address of local
interface */
struct in_addr imr_sourceaddr; /* IP address of
multicast source */
};

 
The ip_mreq_source structure is similar to ip_mreqn described under IP_ADD_MEMBERSIP. The imr_multiaddr field contains the address of the multicast group the application wants to join or leave. The imr_interface field is the address of the local interface with which the system should join the multicast group. Finally, the imr_sourceaddr field contains the address of the source the application wants to receive data from.
This option can be used multiple times to allow receiving data from more than one source.
IP_BLOCK_SOURCE (since Linux 2.4.22 以降 / 2.5.68 以降)
Stop receiving multicast data from a specific source in a given group. This is valid only after the application has subscribed to the multicast group using either IP_ADD_MEMBERSHIP or IP_ADD_SOURCE_MEMBERSHIP.
Argument is an ip_mreq_source structure as described under IP_ADD_SOURCE_MEMBERSHIP.
IP_DROP_MEMBERSHIP (Linux 1.2 以降)
マルチキャストグループから抜ける。引き数は IP_ADD_MEMBERSHIP と同様に ip_mreqn または ip_mreq 構造体である。
IP_DROP_SOURCE_MEMBERSHIP (since Linux 2.4.22 / 2.5.68)
Leave a source-specific group—that is, stop receiving data from a given multicast group that come from a given source. If the application has subscribed to multiple sources within the same group, data from the remaining sources will still be delivered. To stop receiving data from all sources at once, use IP_LEAVE_GROUP.
Argument is an ip_mreq_source structure as described under IP_ADD_SOURCE_MEMBERSHIP.
IP_FREEBIND (Linux 2.4 以降)
このブール値のオプションを有効にすると、ローカルではない IP アドレスや存在しない IP アドレスをバインドできるようになる。これを使うと、対応するネットワークインターフェイスがなかったり、アプリケーションがソケットをバインドしようとする時点で特定の動的 IP アドレスが有効になっていなかったりしても、ソケットを接続待ち状態 (listening) にできるようになる。このオプションは、下記に説明がある ip_nonlocal_bind /proc インターフェイスのソケット単位の設定である。
IP_HDRINCL (Linux 2.0 以降)
有効になっていると、ユーザは IP ヘッダをユーザーデータの前に与える。 SOCK_RAW ソケットでのみ有効である。詳細は raw(7) を見よ。このフラグが有効になっていると、 IP_OPTIONS, IP_TTL, IP_TOS は無視される。
IP_MSFILTER (since Linux 2.4.22 / 2.5.68)
This option provides access to the advanced full-state filtering API. Argument is an ip_msfilter structure.
 


struct ip_msfilter {
struct in_addr imsf_multiaddr; /* IP multicast group
address */
struct in_addr imsf_interface; /* IP address of local
interface */
uint32_t imsf_fmode; /* Filter-mode */


uint32_t imsf_numsrc; /* Number of sources in
the following array */
struct in_addr imsf_slist[1]; /* Array of source
addresses */
};

 

There are two macros, MCAST_INCLUDE and MCAST_EXCLUDE, which can be used to specify the filtering mode. Additionally, the IP_MSFILTER_SIZE(n) macro exists to determine how much memory is needed to store ip_msfilter structure with n sources in the source list.

For the full description of multicast source filtering refer to RFC 3376.
IP_MTU (Linux 2.2 以降)
ソケットの、既知の path MTU を取得する。ソケットが接続している場合のみ有効である。 getsockopt(2) でのみ使える。
IP_MTU_DISCOVER (Linux 2.2 以降)
ソケットの Path MTU Discovery の設定をセット・取得する。有効になっていると、Linux は SOCK_STREAM ソケットに対して RFC 1191 で定義されている Path MTU Discovery を行う。 SOCK_STREAM でないソケットについては、 IP_PMTUDISC_DO をセットすると、全ての送信パケットでフラグメント不許可フラグ (don't-fragment flag) が必ずセットされるようになる。 SOCK_STREAM でないソケットでは、パケットを MTU のサイズの塊に分割したり、必要に応じて再送したりするのは、ユーザが責任を持って行う必要がある。既知の Path MTU よりも大きなデータグラムの送信が要求されると、カーネルは ( EMSGSIZE で) 送信を拒否する。 IP_PMTUDISC_WANT の場合は、 Path MTU に基づいて必要であればデータグラムの分割が行われ、それ以外の場合はフラグメント不許可フラグがセットされる。
 
システム全体のデフォルトは IP_PMTUDISC_WANTIP_PMTUDISC_DONT のどちらかに設定することができる。設定の変更は、 /proc/sys/net/ipv4/ip_no_pmtu_disc ファイルに、0 ( IP_PMTUDISC_WANT) か 0 以外 ( IP_PMTUDISC_DONT) を書き込むことで行う。
Path MTU discovery 値 意味
IP_PMTUDISC_WANT ルートごとの設定を用いる。
IP_PMTUDISC_DONT Path MTU Discovery を行わない。
IP_PMTUDISC_DO 常に Path MTU Discovery を行う。
IP_PMTUDISC_PROBE DFビットをセットするが、Path MTU を無視する。
 
path MTU discovery が有効になっていると、カーネルは宛先ホストごとに自動的に path MTU を処理する。特定の相手に connect(2) で接続した場合には、 IP_MTU ソケットオプションを用いれば、既知の path MTU の取得に便利である (たとえば EMSGSIZE エラーが起きた後など)。 path MTU は時間とともに変化するかもしれない。宛先がたくさんあるコネクションレスなソケットでは、与えられた宛先に対する新しい MTU にも、エラーキューを用いてアクセスすることができる ( IP_RECVERR を見よ)。 MTU 更新が到着するごとに、新たなエラーがキューイングされる。
 
MTU discovery の進行中には、データグラムソケットからの初期パケットは到着しないかもしれない。 UDP を用いるアプリケーションでは、このことを気にかけておき、パケットの再送アルゴリズムにこの分を除外させるべきである。
 
接続していないソケットに対して path MTU discovery プロセスを立ち上げるには、大きなデータグラムサイズ (最大 64K ヘッダバイト長) からはじめて、 path MTU が更新されるまでサイズを縮めていくことも可能である。
 
path MTU の値をまず見積もってみるには、宛先アドレスに connect(2) を使ってデータグラムソケットを接続し、 getsockopt(2) を IP_MTU オプションとともに呼び、 MTU を取得することである。
 
IP_PMTUDISC_PROBE (Linux 2.6.22 以降で利用可能) を設定することで、 SOCK_DGRAMSOCK_RAW のソケットで RFC 4821 の MTU 探索を実装することが可能である。また、この機能は、 tracepath(8) のような診断ツールで特に有用である。これらのツールでは、観測された Path MTU よりも大きな探索パケットを意図的に送信しようとする。
IP_MULTICAST_ALL (since Linux 2.6.31)
This option can be used to modify the delivery policy of multicast messages to sockets bound to the wildcard INADDR_ANY address. The argument is a boolean integer (defaults to 1). If set to 1, the socket will receive messages from all the groups that have been joined globally on the whole system. Otherwise, it will deliver messages only from the groups that have been explicitly joined (for example via the IP_ADD_MEMBERSHIP option) on this particular socket.
IP_MULTICAST_IF (Linux 1.2 以降)
ローカルデバイスをマルチキャストソケットとして設定する。引き数は IP_ADD_MEMBERSHIP と同様に ip_mreqn または ip_mreq 構造体である。
不正なソケットオプションが渡されると、 ENOPROTOOPT が返される。
IP_MULTICAST_LOOP (Linux 1.2 以降)
マルチキャストパケットをローカルなソケットにループバックするかどうかを定めるブール値の整数引き数を設定・取得する。
IP_MULTICAST_TTL (Linux 1.2 以降)
このソケットから発信されるマルチキャストパケットの time-to-live 値を設定・取得する。マルチキャストパケットに対しては、できるだけ小さな TTL に設定することがとても重要である。デフォルトは 1 で、ユーザープログラムが明示的に要求しない限りマルチキャストパケットはローカルなネットワークから出ないことになる。引き数に整数を取る。
IP_NODEFRAG (Linux 2.6.36 以降)
有効 (引き数が 0 以外の場合) になっていると、netfilter 層での出力パケットの再構築 (reassembly) が行われなくなる。このオプションは SOCK_RAW ソケットにおいてのみ有効である。引き数は整数である。
IP_OPTIONS (Linux 2.0 以降)
このソケットから送られるパケット全てに付随する IP オプションを設定・取得する。オプションを保存しているメモリバッファへのポインタとオプションの長さとを引き数に取る。 setsockopt(2) を呼び出すと、ソケットに関連づけられる IP オプションを設定できる。 IPv4 におけるオプションのサイズの最大値は 40 バイトである。用いることのできるオプションについては RFC 791 を見よ。 SOCK_STREAM ソケットに対する初期接続要求パケットに IP オプションが含まれていると、ルーティングヘッダを付けて戻されてくる初期パケットの IP オプションに同じオプションがセットされる。接続が確立された後、やってきたパケットのオプションを変更することはできない。デフォルトでは。外部から受信したパケットの全ての source routing オプションの処理は無効となっており、 /proc インタフェースの accept_source_route を使うとこれを有効にできる。これを無効にしていても timestamps などの他のオプションの処理は行われる。データグラムソケットでは、 IP オプションはローカルユーザーしか設定できない。 getsockopt(2) を IP_OPTIONS をつけて呼ぶと、現在送信に用いられている IP オプションを引き数に与えたバッファに取得できる。
IP_PKTINFO (Linux 2.2 以降)
IP_PKTINFO 補助メッセージを渡す。これには到着パケットに関する情報を提供する pktinfo 構造体が含まれている。データグラム指向のソケットでしか動作しない。引き数は IP_PKTINFO メッセージを通過させるかどうかをソケットに知らせるフラグである。メッセージ自身は recvmsg(2) または sendmsg(2) を用いたパケットの制御メッセージとしてのみ送受信できる。


struct in_pktinfo {
unsigned int ipi_ifindex; /* Interface index */
struct in_addr ipi_spec_dst; /* Local address */
struct in_addr ipi_addr; /* Header Destination
address */
};

ipi_ifindex はパケットが受信されたインターフェースの、他と重ならないインデックスである。 ipi_spec_dst はパケットのローカルアドレスである。 ipi_addr はパケットヘッダにある宛先アドレスである。 IP_PKTINFOsendmsg(2) に渡されて、かつ ipi_spec_dst が 0 以外の場合、 ipi_spec_dst はルーティングテーブルを検索する際にローカルな送信元アドレスとして使用され、 IP source route オプションを設定するのにも使用される。 ipi_ifindex が 0 以外の場合、このインデックスによって指定されるインターフェースのプライマリローカルアドレスで ipi_spec_dst を上書きし、ルーティングテーブルを検索する。
IP_RECVERR (Linux 2.2 以降)
エラーメッセージの受け渡しに、信頼性の高い拡張された方法を有効にする。データグラムソケットに対して有効になっていると、発生したエラーは全てソケットごとのエラーキューに保存される。ユーザーはソケット操作からエラーを受け取ったとき、 recvmsg(2) を MSG_ERRQUEUE フラグとともに呼べばそのエラーを取得できる。そのエラーを記述する sock_extended_err 構造体が、タイプ IP_RECVERR・レベル IPPROTO_IP の補助メッセージとして渡される。これは接続志向でないソケットで信頼性の高いエラー処理を行いたい場合に有用である。エラーキューの受信データフラグメントにはエラーパケットが含まれる。
IP_RECVERR 制御メッセージには sock_extended_err 構造体が含まれる:


#define SO_EE_ORIGIN_NONE 0
#define SO_EE_ORIGIN_LOCAL 1
#define SO_EE_ORIGIN_ICMP 2
#define SO_EE_ORIGIN_ICMP6 3


struct sock_extended_err {
uint32_t ee_errno; /* error number */
uint8_t ee_origin; /* where the error originated */
uint8_t ee_type; /* type */
uint8_t ee_code; /* code */
uint8_t ee_pad;
uint32_t ee_info; /* additional information */
uint32_t ee_data; /* other data */
/* More data may follow */
};


struct sockaddr *SO_EE_OFFENDER(struct sock_extended_err *);

ee_errno にはキューに入っているエラーの errno 番号が入る。 ee_origin にはエラーが発生した場所を示すコードが入る。その他のフィールドはプロトコル依存である。 SO_EE_OFFENDER マクロは与えられた補助メッセージへのポインタからエラーの発生したネットワークオブジェクトのアドレスへのポインタを返す。アドレスが不明な場合、 sockaddr 構造体の sa_family フィールドは AF_UNSPEC となり、その他のフィールド値は不定である。
IP は以下のような sock_extended_err 構造体を用いる: ee_origin は、エラーが ICMP パケットとして受信された場合には SO_EE_ORIGIN_ICMP にセットされ、ローカルで起こった場合には SO_EE_ORIGIN_LOCAL にセットされる。不明な値は無視される。 ee_typeee_code は ICMP ヘッダの type フィールドと code フィールドの値にセットされる。 ee_info には EMSGSIZE エラーに対する discover された MTU が入る。メッセージにはエラーを引き起こしたノードの sockaddr_in 構造体も含まれる。これには SO_EE_OFFENDER マクロを使ってアクセスできる。ソースが不明の場合、 SO_EE_OFFENDER アドレスの sin_family フィールドは AF_UNSPEC となる。エラーがネットワークで起きた場合には、ソケットで有効になっていたすべての IP オプション ( IP_OPTIONS, IP_TTL など) とエラーパケットに含まれていたすべての IP オプションとが、制御メッセージとして渡される。エラーを起こしたパケットのペイロード (payload) は普通のペイロードとして返される。 TCP にはエラーキューがないことに注意してほしい。 MSG_ERRQUEUESOCK_STREAM ソケットに対しては使えない。 TCP では IP_RECVERR だけが有効だが、ソケット関数から返されるエラーは SO_ERROR だけになる。
raw ソケットに対して IP_RECVERR を指定すると、受信したすべての ICMP エラーをアプリケーションに渡すようになる。指定しないと、接続済みのソケットに対するエラーだけを報告する。
このオプションはブール値のフラグを設定・取得する。 IP_RECVERR はデフォルトではオフになっている。
IP_RECVOPTS (Linux 2.2 以降)
到着した全ての IP オプションを IP_OPTION コントロールメッセージに入れてユーザーに渡す。ルーティングヘッダとその他のオプションとは、ローカルホストに対してはあらかじめ記入されている。 SOCK_STREAM ソケットではサポートされていない。
IP_RECVORIGDSTADDR (Linux 2.6.29 以降)
このブール値のオプションがセットされると、 recvmsg(2) で IP_ORIGDSTADDR 補助メッセージが有効になる。カーネルはデータグラムを受信した元の宛先アドレスをこの補助メッセージで返す。この補助メッセージには struct sockaddr_in が格納される。
IP_RECVTOS (Linux 2.2 以降)
有効になっていると、 IP_TOS 補助メッセージが到着パケットとともに渡される。これにはパケットヘッダの Service/Precedence フィールドのタイプを指定するバイトデータが含まれている。ブール整数値のフラグをとる。
IP_RECVTTL (Linux 2.2 以降)
このフラグがセットされていると、 IP_TTL コントロールメッセージが受信パケットの time-to-live フィールドのバイトデータとともに渡される。 SOCK_STREAM ソケットではサポートされていない。
IP_RETOPTS
IP_RETOPTS (Linux 2.2 以降) IP_RECVOPTS と等価だが、未処理の生のオプションを、この hop では記入されない timestamp レコードと route レコードとともに返す。
IP_ROUTER_ALERT (Linux 2.2 以降)
フォワードすべきパケットを IP Router Alert オプションをつけてこのソケットに渡す。 raw ソケットに対してのみ有効である。これはたとえばユーザー空間の RSVP デーモンに対して便利である。タップされたパケットはカーネルによってはフォワードされないので、これらを再送するのはユーザーの責任となる。ソケットのバインドは無視され、このようなパケットはプロトコルによってのみフィルタリングされる。整数値のフラグを取る。
IP_TOS (Linux 1.0 以降)
このソケットから送信されるすべての IP パケットに適用される Type-Of-Service (TOS) フィールドを設定・取得する。これはネットワーク上でのパケットの優先度を決めるために用いられる。 TOS はバイトデータである。標準の TOS フラグがいくつか定義されている。 IPTOS_LOWDELAY はインタラクティブなトラフィックの遅延を最小にする。 IPTOS_THROUGHPUT はスループットを最大にする。 IPTOS_RELIABILITY は信頼性を最高にする。 IPTOS_MINCOST は転送速度が遅くてもかまわないとき、「データを詰め込む」のに用いられる。これらのうち、 1 つまでだけを設定できる。他のビットは無効で、クリアされる。 Linux はデフォルトでは IPTOS_LOWDELAY データグラムを最初に送信する。しかし、正確な振る舞いはキュー処理の設定に依存する。高い優先度にするにはスーパーユーザー権限 ( CAP_NET_ADMIN ケーパビリティ) が必要となるかもしれない。優先度は ( SOL_SOCKET, SO_PRIORITY) ソケットオプションを用いれば、プロトコルに依存しない形でも設定できる ( socket(7) を見よ)。
IP_TRANSPARENT (Linux 2.6.24 以降)
このブール値のオプションを有効にすると、このソケットで透過プロキシ (transparent proxy) ができるようになる。このソケットオプションを使うと、呼び出したアプリケーションは、ローカルではない IP アドレスをバインドして、ローカルの端点として自分以外のアドレス (foreign address) を持つクライアントやサーバの両方として動作できるようになる。 注意: この機能が動作するためには、自分以外のアドレス宛のパケットが透過プロキシが動作するマシン (TProxy box) 経由で転送されるように、ルーティングが設定される必要がある。このソケットオプションを有効にするには、スーパーユーザ特権 ( CAP_NET_ADMIN ケーパビリティ) が必要である。
iptables の TPROXY ターゲットで透過プロキシリダイレクション (TProxy redirection) を行うには、リダイレクトされるソケットに対してこのオプションを設定する必要がある。
IP_TTL (Linux 1.0 以降)
time-to-live フィールドの値を設定または取得する。この値はこのソケットから送信されるすべてのパケットに用いられる。
IP_UNBLOCK_SOURCE (since Linux 2.4.22 / 2.5.68)
Unblock previously blocked multicast source. Returns EADDRNOTAVAIL when given source is not being blocked.
Argument is an ip_mreq_source structure as described under IP_ADD_SOURCE_MEMBERSHIP.

/proc インタフェース

IP プロトコルでは、いくつかのグローバルパラメータを設定するための /proc ファイル群が用意されている。これらのパラメータには、 /proc/sys/net/ipv4/ ディレクトリ内のファイルの読み書きでアクセスできる。 Boolean と書かれたインタフェースは整数値をとり、 0 以外の値 ("true") は対応するオプションが有効、 0 値 ("false") は無効、であることを意味する。
ip_always_defrag (Boolean; Linux 2.2.13 以降)
[2.2.13 で新規登場。以前のバージョンのカーネルでは、この機能はコンパイル時に CONFIG_IP_ALWAYS_DEFRAG オプションによって制御されていた;このファイルは 2.4.x 以降では存在しない]
 
このブール値のフラグが有効になっている (0 以外になっている) と、到着したフラグメント (IP パケットの一部で、発信元と発信先の間のどこかのホストで、そのパケットが大きすぎると判断され、分割された場合に生じる) は、たとえフォワードされる場合であっても処理前に再構築 (デフラグメント) される。
 
ファイアウォールがローカル側のネットワークに唯一のリンクを持っている場合や、透過プロクシの場合に限って有効にすべきである。通常のルーターやホストでは決して使用することのないように。さもないとフラグメントが別のリンクを経由して伝わる場合に、通信のフラグメント化ができなくなってしまう。またフラグメント再構築処理はメモリと CPU 時間のコストが非常に大きい。
 
これはマスカレードや透過プロクシが設定されると、不思議な仕組みによって自動的に有効になる。
ip_autoconfig (Linux 2.2 以降 2.6.17 まで)
まだ記述していない。
ip_default_ttl (integer; default: 64; Linux 2.2 以降)
送出されるパケットの time-to-live 値のデフォルトをセットする。これは IP_TTL オプションを用いれば、パケットごとに変えることもできる。
ip_dynaddr (Boolean; default: disabled; Linux 2.0.31 以降)
動的ソケットアドレスと、インターフェースアドレスが変更された際のマスカレードエントリの再書き込みを有効にする。ダイアルアップインターフェースで、 IP アドレスが変更される場合に便利である。
ip_forward (Boolean; default: disabled; Linux 1.2 以降)
IP forwarding を有効にするかどうかのブール値フラグ。 IP forwarding するかどうかはインターフェースごとにも設定できる。
ip_local_port_range (Linux 2.2 以降)
ソケットに割り当てられているデフォルトのローカルポートの範囲を定める二つの整数を与える。割り当ては 1 番目の番号から始まり、 2 番目の番号で終わる。これらはマスカレードで用いられているポートと重なってはならない (その場合も取り扱われるが)。ファイアウォールのパケットフィルターが「利用中のローカルポート」について何らかの仮定をしている場合には、番号を勝手に決めてしまうと問題が起きるかもしれない。 1 番目の番号は少なくとも 1024 より大きくすべきである。良く使われるポートとの衝突を避けたり、ファイアウォールの問題を回避したければ、 4096 よりも大きくするほうが良いだろう。
ip_no_pmtu_disc (Boolean; default: disabled; Linux 2.2 以降)
有効になっていると、デフォルトで TCP ソケットに対する Path MTU Discoverty を行わない。 Path MTU Discovery は、正しく設定されていない (ICMP パケットを全てドロップする) ファイアウォールや、 (point-to-point リンクで双方の MTU が一致していない場合など) 正しく設定されていないインターフェースが経路上に存在すると失敗してしまう。 Path MTU Discovery をグローバルに無効にするよりは、壊れているルータを直すほうが良い。 Path MTU Discovery を無効にするとネットワークのコストが大きくなってしまうからである。
ip_nonlocal_bind (Boolean; default: disabled; Linux 2.4 以降)
セットされていれば、プロセスが自分以外の IP アドレスを bind(2) できるようになる。これはかなり便利だが、うまく動かないアプリケーションもある。
ip6frag_time (integer; default: 30)
IPv6 フラグメントをメモリに保持しておく時間 (秒単位)。
ip6frag_secret_interval (integer; default: 600)
IPv6 フラグメントの hash secret の生成間隔 (hash secret の寿命) (秒単位)。
ipfrag_high_thresh (integer), ipfrag_low_thresh (integer)
キューイングされている IP フラグメントの量が ipfrag_high_thresh に達すると、キューの内容は ipfrag_low_thresh にまで切り捨てられる。それぞれの大きさをバイト単位で表す整数値が入っている。
neigh/*
arp(7) を見よ。

ioctl

socket(7) に記述されている ioctl は、すべて ip にも適用される。

ジェネリックデバイスのパラメータを設定する ioctl については netdevice(7) に記述されている。

エラー

EACCES
必要な権限のないユーザーが操作を実行しようとした。以下のような場合が考えられる: SO_BROADCAST フラグを設定していない状態でブロードキャストアドレスにパケットを送ろうとした。 prohibit なルートを通してパケットを送ろうとした。スーパーユーザー権限 ( CAP_NET_ADMIN ケーパビリティ) なしでファイアウォールの設定を変更しようとした。スーパーユーザー権限 ( CAP_NET_BIND_SERVICE ケーパビリティ) なしで特権ポートにバインドしようとした。
EADDRINUSE
既に使用されているアドレスにバインドしようとした。
EADDRNOTAVAIL
存在しないインターフェースが要求された。または要求されたソースアドレスがローカルでない。
EAGAIN
非ブロッキングソケットに対してブロックする操作を行った。
EALREADY
非ブロッキングソケットに対する接続操作が既に実行中である。
ECONNABORTED
accept(2) の途中で接続がクローズされた。
EHOSTUNREACH
宛先アドレスにマッチする有効なエントリがルーティングテーブルに存在しない。このエラーはリモートルータからの、あるいはローカルルーティングテーブルへの ICMP メッセージによって引き起こされることがある。
EINVAL
不正な引き数が渡された。送信操作において、 blackhole ルートに送信しようとするとこのエラーが起こることがある。
EISCONN
接続済みのソケットに対して connect(2) が呼ばれた。
EMSGSIZE
データグラムが path MTU よりも大きく、フラグメント化もできない。
ENOBUFS, ENOMEM
空きメモリが足りない。このエラーは、メモリアロケーションがソケットバッファの大きさによって制限されていることを意味しているのが通常であるが、 100% そうだというわけではない。
ENOENT
パケットが到着していないソケットに対して SIOCGSTAMP が呼ばれた。
ENOPKG
カーネルサブシステムが設定されていない。
ENOPROTOOPTEOPNOTSUPP
無効なソケットオプションが渡された。
ENOTCONN
接続されていないソケットに対して、接続状態でしか定義されていない操作を行おうとした。
EPERM
高い優先度を設定したり、設定を変更したり、要求されたプロセスやプロセスグループにシグナルを送ったりするのに必要な権限を、ユーザーが持っていない。
EPIPE
接続が接続相手によって、予期しないやり方でクローズまたはシャットダウンされた。
ESOCKTNOSUPPORT
ソケットが未設定であるか、知らないソケットタイプが要求された。

他のエラーが上層のプロトコルによって生じるかもしれない。 tcp(7), raw(7), udp(7), socket(7) などを参照のこと。

注意

IP_FREEBIND, IP_MSFILTER, IP_MTU, IP_MTU_DISCOVER, IP_RECVORIGDSTADDR, IP_PKTINFO, IP_RECVERR, IP_ROUTER_ALERT, and IP_TRANSPARENT は Linux 固有である。
 
SO_BROADCAST オプションの利用には、くれぐれも注意すること。これは Linux では特権操作ではない。不注意なブロードキャストを行うと、ネットワークは簡単に過負荷状態になる。新しいアプリケーションプロトコルには、ブロードキャストではなくマルチキャストグループを用いるほうがよい。ブロードキャストは推奨されない。

他の BSD のソケット実装では、 IP_RCVDSTADDRIP_RECVIF といったソケットオプションがサポートされており、宛先アドレスや受信データグラムのインターフェースが取得できるようになっていることもある。 Linux で同じことをやらせるには、より一般的な IP_PKTINFO が使える。

いくつかの BSD のソケット実装では IP_RECVTTL オプションも提供されているが、タイプ IP_RECVTTL の補助メッセージは受信パケットとともに渡される。これは Linux で使われている IP_TTL オプションとは異なる動作である。

SOL_IP ソケットオプションレベルは移植性がない。 BSD ベースのプロトコルスタックでは IPPROTO_IP レベルが使用されている。

移植性

Linux 2.0 との互換性のために、 obsolete な socket(AF_INET, SOCK_PACKET, protocol ) という書式でも packet(7) をオープンできるようになっているが、これはお勧めできない。今後は socket(AF_PACKET, SOCK_RAW, protocol ) を代わりに用いるべきである。主な違いは、ジェネリックなリンク層用の sockaddr_ll アドレス構造体が、古い sockaddr_pkt に変わって用いられるようになったことである。

バグ

エラーの値がまったく首尾一貫していない。

IP 固有のインターフェースオプションを指定するための ioctl と ARP テーブルのことが記述されていない。

glibc のバージョンによっては in_pktinfo の定義を忘れているものがある。現時点でのとりあえずの対策としては、この man ページにある定義をプログラム中にコピーすることである。

recvmsg(2) で msg_nameMSG_ERRQUEUE を指定して、受信パケットに入っていた宛先アドレスを取得する方法は 2.2 カーネルの一部でうまく動かない。

関連項目

recvmsg(2), sendmsg(2), byteorder(3), ipfw(4), capabilities(7), icmp(7), ipv6(7), netlink(7), raw(7), socket(7), tcp(7), udp(7)

RFC 791 for the original IP specification. RFC 1122 for the IPv4 host requirements. RFC 1812 for the IPv4 router requirements.

この文書について

この man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 3.51 の一部である。プロジェクトの説明とバグ報告に関する情報は http://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。
2013-04-16 Linux