みちくさ
道草

冒頭文

一 健三(けんぞう)が遠い所から帰って来て駒込(こまごめ)の奥に世帯(しょたい)を持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種の淋(さび)し味(み)さえ感じた。 彼の身体(からだ)には新らしく後(あと)に見捨てた遠い国の臭(におい)がまだ付着していた。彼はそれを忌(い)んだ。一日も早くその臭を振(ふる)い落さなければならないと思った。そうし

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日新聞」1915(大正4)年6月3日〜9月14日

底本

  • 道草
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1942(昭和17)年8月25日、1990(平成2)年4月16日第43刷改版