きょうにつけるゆうべ
京に着ける夕

冒頭文

汽車は流星の疾(はや)きに、二百里の春を貫(つらぬ)いて、行くわれを七条(しちじょう)のプラットフォームの上に振り落す。余(よ)が踵(かかと)の堅き叩(たた)きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉(のど)から火の粉(こ)をぱっと吐(は)いて、暗い国へ轟(ごう)と去った。 たださえ京は淋(さび)しい所である。原に真葛(まくず)、川に加茂(かも)、山に比叡(ひえ)と愛宕(あたご)と鞍馬(

文字遣い

新字新仮名

初出

「京に着ける夕」1910(明治43)年3月 大阪朝日新聞

底本

  • 夏目漱石全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年7月26日