きょうにつけるゆうべ |
| 京に着ける夕 |
冒頭文
汽車は流星の疾(はや)きに、二百里の春を貫(つらぬ)いて、行くわれを七条(しちじょう)のプラットフォームの上に振り落す。余(よ)が踵(かかと)の堅き叩(たた)きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉(のど)から火の粉(こ)をぱっと吐(は)いて、暗い国へ轟(ごう)と去った。 たださえ京は淋(さび)しい所である。原に真葛(まくず)、川に加茂(かも)、山に比叡(ひえ)と愛宕(あたご)と鞍馬(くらま
文字遣い
新字新仮名
初出
「大阪朝日新聞」1907(明治40)年4月9日~11日
底本
- 夏目漱石全集10
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1988(昭和63)年7月26日