くさまくら
草枕

冒頭文

一 山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。 智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通(とお)せば窮屈(きゅうくつ)だ。とかくに人の世は住みにくい。 住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟(さと)った時、詩が生れて、画(え)が出来る。 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1906(明治39)年9月

底本

  • 夏目漱石全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年12月1日