こうふ
坑夫

冒頭文

さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかり生(は)えていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行(あるい)たって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。いっそ始めから突っ立ったまま松と睨(にら)めっ子(こ)をしている方が増しだ。 東京を立ったのは昨夕(ゆうべ)の九時頃で、夜通しむちゃくちゃに北の方へ歩いて来たら草臥(くたび

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日新聞」1908(明治41)年1~4月

底本

  • 夏目漱石全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年1月26日