にひゃくとおか
二百十日

冒頭文

一 ぶらりと両手を垂(さ)げたまま、圭(けい)さんがどこからか帰って来る。 「どこへ行ったね」 「ちょっと、町を歩行(ある)いて来た」 「何か観(み)るものがあるかい」 「寺が一軒あった」 「それから」 「銀杏(いちょう)の樹(き)が一本、門前(もんぜん)にあった」 「それから」 「銀杏(いちょう)の樹から本堂まで、一丁半ばかり、石が敷き詰めてあった。非常に細長い寺だった

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1906(明治39)年10月

底本

  • 夏目漱石全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年12月1日