はないくとせ |
| 花幾年 |
冒頭文
東京の春があらかた過ぎてから、ことしの花はどうだったかと思い出した年があった。自分だけかと思って、恥しいことだとひとりで赭(あか)くなって、誰にも言わなかった。五月近くなってから、「ことしの花は、どうだったけなあ」一人言い二人言い、言い出す人が、ちょいちょいあって、不覚(ふかく)人は、私ひとりでもなかったことを知った。併(しか)し痛切に感じたのは、やはり私位のものだろう。その前年も、その亦(また)
文字遣い
新字新仮名
初出
「旅 第二十一巻第四号」1947(昭和22)年4月
底本
- 日本近代随筆選 2大地の声〔全3冊〕
- 岩波文庫、岩波書店
- 2016(平成28)年5月17日