あるせんきょふうけい
或る選挙風景

冒頭文

競輪場はうるさいものだ。あと五分で投票を〆切ります、投票を〆切ります。拡声器の間断ない絶叫の合間にベルが脳天をドリルで突きさすように鳴りつづける。人間が殺気立つのは仕方がないような、気違いじみた騒音であるが、今度の選挙はそれよりもひどかった。東京も大変だったそうだが、私は上京しなかったから知らない。関西へは旅行したが、朝七時前、京都大阪間のまだ人の通行のほとんど見られない路上でもう候補者が無人の空

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮 第四八巻第七号」1951(昭和26)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集16
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1991(平成3)年7月24日