とかちのあさ
十勝の朝

冒頭文

機会があったら今一度行ってみたいと思うものは、十勝岳の真冬の景色である。もう五年も前の話になるが、雪の研究のためと言って、二冬続けて、五度ばかりも十勝岳へ行ったことがある。 十勝岳といっても、落着く先は、いつも中腹千メートルあまりの高さの所にあるヒュッテであった。そのヒュッテは、本当は森林管視人の住い家であって、その頃はO老人夫婦が棲んでいた。O老人はその生涯を北海道の雪の山中で過した変り者で

文字遣い

新字新仮名

初出

「新風土」1938(昭和13)年2月

底本

  • 科学以前の心
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 2013(平成25)年4月20日