ねづよいほくりくぶんか
根強い北陸文化

冒頭文

私が四高の学生だったころに、金沢から一人の若い青年が突如として、彗(すい)星のごとく日本の文壇にあらわれた。それは『地上』でもって、一躍世に出た島田清次郎であった。 当時私は、寺町の医師の住宅に下宿していたが、この家は、そのころ金沢でも一流の料亭であった「望月」の並びにあった。犀川べりの高い岸の上に建っていて、縁先からは、はるかに医王山が望まれ、犀川の流れは、一望の下に脚下にひらけていた。月の

文字遣い

新字新仮名

初出

「北陸中日新聞」1960(昭和35)年11月

底本

  • 中谷宇吉郎随筆選集第三巻
  • 朝日新聞社
  • 1966(昭和41)年10月20日