『ししゃのしょ』
『死者の書』

冒頭文

遠い大昔、まだ死者が蘇ったり、化身の人が現われたり、目に見えぬ鬼神(モノ)と人間との間に誓が交されたりした時代。そういう時代は、もう返って来ないであろう。しかしそういう時代への人間のあこがれは、いつの世になっても、全く消え果てるものではなかろう。そういう意味で折口信夫氏の『死者の書』は、いつまでも生命があるもののように思われる。藤原南家の郎女(いらつめ)中将姫の伝説を小説化したもの、というよりも長

文字遣い

新字新仮名

初出

「西日本新聞」1955(昭和30)年8月

底本

  • 中谷宇吉郎随筆選集第三巻
  • 朝日新聞社
  • 1966(昭和41)年10月20日