こうやのふゆ
荒野の冬

冒頭文

北海道の奥地深く、荒野の冬の姿といえば、『カインの末裔』の描写を思い出す人が多いであろう。 鉛色の空が低くたれこめた下には、木も家も、吹きつけられた雪にただあだ白い凄気を帯びて静まりかえっている。そして一度吹雪が来ると、天地が白夜の晦冥とでもいうように、ただ一色に鼠色になる。そして人々は白堊の泥河の水底に沈んだように、深い雪の下で僅かに蠢きながら、辛うじての生活を保って行くのである。 二十

文字遣い

新字新仮名

初出

「短歌研究」1940(昭和15)年11月

底本

  • 中谷宇吉郎随筆選集第一巻
  • 朝日新聞社
  • 1966(昭和41)年6月20日