かっこうのおとずれ
郭公のおとずれ

冒頭文

六月に入ってしばらくすると、郭公が鳴く。 そして郭公とつれて、待ちかねた北海道の初夏が訪れて来る。 長い寒い北国の春につかれた人々は、爽かな初夏の風が、ようやくに出揃った楡の青葉をぬけて来る日が二、三日つづくと、やっと安心する。そして九月までの短い夏にいろいろの希望をかけるのである。 夏に北海道を訪れた人は、誰も北海道の美しさを讃美する。 それには緑の鮮かさとか、気温の涼しさとかい

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1940(昭和15)年6月

底本

  • 中谷宇吉郎随筆選集第一巻
  • 朝日新聞社
  • 1966(昭和41)年6月20日