じっけんしつのおもいで
実験室の思い出

冒頭文

実験室に於ける寺田先生のことを書こうと思うと、私はすぐ大学の卒業実験をやった狭い実験室のことを思い出す。 それは化学の新館と呼ばれていた、小さい裸のコンクリートの建物の一階にあった狭い実験室である。震災の翌年のことで、物理の建物が使えなくなったので、化学の新館を借りていたのであった。この実験室の中で、寺田先生の指導の下で卒業実験を始めたのが、正式に先生の下で研究らしいものを始めた最初であった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1941(昭和16)年2月1日

底本

  • 寺田寅彦 わが師の追想
  • 講談社学術文庫、講談社
  • 2014(平成26)年11月10日