むろあじ |
| 室鰺 |
冒頭文
伊豆の東海岸のこの温泉地では秋風の立ち始めるとともに、また室鰺が沢山漁れ出した。去年の秋の暮、少し静養の意味で、漁港と温泉とを兼ねたここの土地へ移ってきてからもう一年に近い。初めてきた時はちょうど室鰺の盛りの時期であった。通りに面して魚屋の店先には、小鰺と、室鰺との干物が一面に並べられて、秋の陽を一杯に受けながら行儀よく並んで乾されていた。それがいつの間にか段々少くなって行く中に春がきて、今また秋
文字遣い
新字新仮名
初出
「サンデー毎日 第十六年第五十八号」1937(昭和12)年11月14日
底本
- 中谷宇吉郎集 第二巻
- 岩波書店
- 2000(平成12)年11月6日