うさぎのみみ
兎の耳

冒頭文

兎の耳はだてについているものじゃないという話をこの頃聞いて大変面白かった。 その話をしてくれたのは、某大学の若い医学者のTさんである。Tさんは大変な勉強家で、毎晩二時まで本を読んで、朝は六時に起きて研究室へ出かけて行くという変り者なのだそうである。そして汚い研究室の片隅で、兎の耳に注射をしたり、私の腕にも注射したり、兎と人間とをちゃんぽんに取扱ってくれるのである。もっとも貴族院の領袖でも、大変

文字遣い

新字新仮名

初出

附記以外「中央公論 第五十四年第二号」中央公論社、1939(昭和14)年2月1日<br>附記「続冬の華」甲鳥書林、1940(昭和15)年7月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第二巻
  • 岩波書店
  • 2000(平成12)年11月6日