ゆきのかせき1 |
| 雪の化石1 |
冒頭文
北海道の奥地深く、標高千メートルの地点では、冬中気温は普通零下十度以下で、雪の結晶は顕微鏡下に、水晶の骨組のように繊細を極めた姿を顕している。その六方の枝の端の端まで行き渡った輪廓の鋭さは、近代硝子(ガラス)器の持つ感覚である。このような結晶が、冬ごとに北海道の山々を埋めて、春になって融けて行くのは、自然が秘めた最も大きい豪奢の一つであろう。 自然は水母(くらげ)の化石を百万年の後に残し、人間
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京朝日新聞」1935(昭和10)年11月24日
底本
- 中谷宇吉郎集 第一巻
- 岩波書店
- 2000(平成12)年10月5日