ざっき |
| 雑記 |
冒頭文
一 江戸時代のめんこ 下町に家があった頃である。ある五月の日曜の朝早く、久しぶりで、千葉の稲毛の海岸へ出かけた。 下町の真中に住んでいた自分には、花曇りの頃から引続いて随分鬱々しい厭な時期であった。 丁度この日は珍しくよく晴れていたので、特に感じたのかも知れないが、稲毛の松林の中から、空気の透明な空と海の映えた色とを眺めながら、久しぶりで気持よく海岸に遠くない麦畑の中を歩いて行った。
文字遣い
新字新仮名
初出
「理学部会誌 第3号」1925(大正14)年12月28日
底本
- 中谷宇吉郎集 第一巻
- 岩波書店
- 2000(平成12)年10月5日