ごてんのせいかつ |
| 御殿の生活 |
冒頭文
御殿というのは、私の田舎に近い城下町の昔からの殿様の御殿のことである。封建時代の殿様の生活から、現今の東京における華族の生活に移る間に、田舎の旧藩下で、御殿の生活の名残りを送った殿様が、どこにも沢山あったことと思われる。 その城下町も、今では急激に発達した輸出絹布の工場が沢山出来て、小さい工場町の感じが見えるのであるが、私の小学校時代には、旧い伝統の香りに満ちた薄暗い北国の田舎町であった。人々
文字遣い
新字新仮名
初出
「理学部会誌 第6号」1927(昭和2)年12月1日
底本
- 中谷宇吉郎集 第一巻
- 岩波書店
- 2000(平成12)年10月5日