あかくら
赤倉

冒頭文

白樺の一本見えて妙高の野ははろばろと雲につづけり妙高のふもと三里の高原赤倉の野は雲につづく夕べ静かなるおもいを抱いてわたしは野におり立って見る茅の間に踏みわけられた径(こみち)がいつ迄も続いて所々が灌木の叢(むら)にかくされている風にそよぐ二本の白樺そのたよやかな幹によれば「肌は真白にわがおもいに似たり」と北信の山に育った友の言葉も浮ばれてくる昨年の夏の初めその友と妙高に登ろうと径づたいに朝露の光

文字遣い

新字新仮名

初出

「理学部会誌 第2号」1925(大正14)年5月21日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第一巻
  • 岩波書店
  • 2000(平成12)年10月5日