とうじょうのはなし
凍上の話

冒頭文

もう十年余りも昔の話になるが、私が寺田先生の助手をつとめて理研で働いていた頃のことである。先生はよく日本独特のものや、特に日本に顕著な自然現象は、一日も早く日本人の手によって究明しておくべきだということを言っておられた。 その代表的なものとしては、線香花火や金米糖、それから墨流しなどがいつも挙げられていた。現に墨流しなどは、先生が亡くなられる時まで数年来ずっとその研究が続けられていた程である。

文字遣い

新字新仮名

初出

「科学 第十一巻第一号」岩波書店、1941(昭和16)年1月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第三巻
  • 岩波書店
  • 2000(平成12)年12月5日