ていおんしつだより
低温室だより

冒頭文

一 御名前の記憶ちがいだったら大変失礼であるが、楚人冠先生か誰かの随筆の中にこんな話があった。 先生が、大分昔の話であるが、どこかの田舎で講演をされたことがあった。聴衆は村の人たちで、知識階級などというものとは凡(およ)そ縁の遠い、ただの農家の主人とか娘さんとかいう人たちであった。 その講演がすんで辞去されようとしたら、世話役の人が、とんでもなく大きい籠に卵を一杯入れて、御礼にくれたそう

文字遣い

新字新仮名

初出

一「婦人之友 第三十四巻第八号」婦人之友社、1940(昭和15)年8月1日<br>二「岩波講座物理学 月報十九号」岩波書店、1940(昭和15)年8月29日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第三巻
  • 岩波書店
  • 2000(平成12)年12月5日