ちいさいきえん
小さい機縁

冒頭文

今年の六月、本土爆撃がいよいよ苛烈になって、東京は大半焼け、横浜も一日の猛爆で、全市が一遍に壊滅してしまった頃の話である。 鎌倉で或る機会に里見弴氏を訪ねた時に、狩太(かりぶと)にある有島農場の話が出た。あの農場はもとは里見さんの令兄故有島武郎氏の農場であった。有島さんはその頃抱懐されていた主義に基いて、あの農場を当時の小作人たちに無償で開放された由である。その開放の方法がちょっと変っているの

文字遣い

新字新仮名

初出

「光 第二巻二号」光文社、1946(昭和21)年2月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第五巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年2月5日