すくわれたきぼん ——てらだとらひこちょ『ぶつりがくじょせつ』
救われた稀本 ——寺田寅彦著『物理学序説』

冒頭文

この書は未完であり、かついわば草稿であって、まだ十分な推敲を経たものではない。しかしこの書は、わが国では類例の少い独自の著述である。このままの形でも、真に学問を愛し、科学の本質を知りたいと願う人々に、一度熟読をすすめたい本である。 終戦直後、九州のある友人から、むつかしい質問をうけたことがある。それは公共的な意味で使いたい紙の手持ちが少しあるが、それを新生日本の糧として残すという意味で、本にし

文字遣い

新字新仮名

初出

「物理学序説」岩波書店、1947(昭和22)年4月5日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第五巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年2月5日