はっかいにあったはなし
八戒に遭った話

冒頭文

もう十年昔の話になるが、学士院賞を貰った時に、その金で『東瀛珠光』と『西域画聚成』とを買ったことがある。 学士院賞というものは、私たちが中学へはいって間もない頃創められたもので、賞金は千円であった。当時千円という金額が決められたのについて、もちろん嘘ではあろうが、京童はこういうかげ口をきいたものだそうである。即ち、学者は一生研究していても、到底自分の家を持つことは出来ない、せめてとくに優れた研

文字遣い

新字新仮名

初出

「藝術新潮 第二巻第十三号」1951(昭和26)年12月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第六巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年3月5日