おんせん2
温泉2

冒頭文

もう二十年以上も昔の話であるが、弟といっしょに、しばらくパリで暮したことがある。私は文部省の留学生であり、弟は考古学をやっていて、トロカデロの博物館から僅かばかりの手当をもらっているだけで、二人ともはなはだ貧乏であった。 それでなるだけ生活費のかからぬように暮す必要があった。自費洋行の画学生たちのように、自炊生活をするのがいちばん安いわけであって、それだと当時の金で、一ト月五十円ぐらいで暮せた

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物 第七巻第三号」文藝春秋新社、1952(昭和27)年3月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第六巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年3月5日