むすめのけっこん
娘の結婚

冒頭文

どうしたわけか、この近年、天下国家を論ずるような巡り合せに会うことが多く、身辺の雑事を書く機会が、ほとんどなかった。本当のところは、随筆などというものは、少し照れながら子供の自慢話でも書いている方が、一番気楽でもあり、また無難でもある。 娘の結婚には、親は誰でも気を揉むが、さて愈々嫁に行ってしまうと、一番がっかりするのは、父親だという話を、前から聞いていた。しかし、その実感は、ちっとも感ぜられ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋 第三十四巻第十号」1956(昭和31)年10月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第八巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年5月7日