ぼせいあいのかに |
| 母性愛の蟹 |
冒頭文
加賀の蟹は、東京などにもよく知られている。いわゆる「ずわい蟹」という。脚の長い形のよい蟹である。 この蟹は、一般には、越前蟹と呼ばれているが、肉は白い大理石のような色をしていて、きめのこまかい締った肉の歯ごたえが、誰にも喜ばれている。 しかしこの蟹とほとんど同じ時期に、「こうばく蟹」という小さい蟹も、北陸の沿岸では、たくさん漁れている。甲の大きさは、直径二寸足らず、細くすんなりと伸びた脚を
文字遣い
新字新仮名
初出
「あまカラ 第八十号」甘辛社、1958(昭和33)年4月5日
底本
- 中谷宇吉郎集 第八巻
- 岩波書店
- 2001(平成13)年5月7日