とらひこのいせき
寅彦の遺跡

冒頭文

高知へ着いた日に、すぐ寺田紀念館で、御親戚の方や、寅彦を敬愛する人たちと、座談会の準備がしてあった。 紀念館は、先生の旧宅のあとに建てられたもので、昔の名残としては、庭の一部と先生が子供の頃勉強された離れ部屋が一ツ残っているだけである。旧宅は全部戦災で焼けてしまった。 新しい紀念館は、戦後顕彰会の手で建てられたもので、中は全くのがらん洞である。遺品や先生ゆかりの品などは、全部戦災で亡われて

文字遣い

新字新仮名

初出

「西日本新聞」1955(昭和30)年8月10日夕刊

底本

  • 中谷宇吉郎集 第八巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年5月7日