きんりんこ
金鱗湖

冒頭文

別府の裏側、由布山系の峠を越したところに、由布院という盆地がある。 ここは温泉もあり、最近だいぶ発展したが、以前はひどい山奥であった。もう四十年以上も昔の話であるが、中学時代に、ここを訪ねたときは、草鞋(わらじ)がけで、歩いて行ったものである。朝暗いうちに、別府を立ったが、向こうへ着いたときは、夕方すっかり暗くなっていた。 ここに金鱗湖という小さい池がある。その湖はんに一軒だけ木賃宿があっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「夕刊 読売新聞」読売新聞社、1960(昭和35)年4月9日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第八巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年5月7日