しおのふうしゅ
塩の風趣

冒頭文

戦争前の話であるが、京橋のあたりに、K鮨という鮨屋があった。材料がよいというので、たいへん評判がよかった。 亡くなった岩波さんは、人に御馳走をするのが道楽であって、よく方々へ連れていって、御馳走をしてくれたものである。K鮨もその一つであった。北海道から出てくると、東京の御馳走は、どれもこれもうまいし、それに味覚のそう発達していない私には、こういう御馳走は、少しもったいないくらいであった。しかし

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物 第七巻第四号」文藝春秋新社、1952(昭和27)年4月1日

底本

  • 中谷宇吉郎集 第七巻
  • 岩波書店
  • 2001(平成13)年4月5日