もじとそくりょくとぶんがく |
| 文字と速力と文学 |
冒頭文
私はいつか眼鏡をこわしたことがあった。生憎(あいにく)眼鏡を買う金がなかったのに、机に向かわなければならない仕事があった。 顔を紙のすぐ近くまで下げて行くと、成程(なるほど)書いた文字は見える。又、その上下左右の一団の文字だけは、そこだけ望遠鏡の中のように確かに見えるのである。けれどもそういう状態では小説を書くことができない。そういう人の不自由さを痛感させられたのであった。 つまり私は永年
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸情報 第六巻第一〇号」1940(昭和15)年5月20日
底本
- 堕落論・日本文化私観 他二十二篇
- 岩波文庫、岩波書店
- 2008(平成20)年9月17日