まのたいくつ
魔の退屈

冒頭文

戦争中、私ぐらいだらしのない男はめったになかったと思う。今度はくるか、今度は、と赤い紙キレを覚悟していたが、とうとうそれも来ず、徴用令も出頭命令というのはきたけれども、二、三たずねられただけで、外(ほか)の人達に比べると驚くほどあっさりと、おまけに「どうも御苦労様でした」と馬鹿丁寧に送りだされて終りであった。 私は戦争中は天命にまかせて何でも勝手にしろ、俺(おれ)は知らんという主義であったから

文字遣い

新字新仮名

初出

「太平 第二巻第一〇号」時事通信社、1946(昭和21)年10月1日

底本

  • 風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2008(平成20)年11月14日