えいきゅうとうどちたい
永久凍土地帯

冒頭文

黒河への旅 外は零下三十度近い寒さである。 黒河(こくが)へ向う私たちの汽車は、孫呉(そんご)の駅を出て既に数時間走っている。 車窓に見える限りの雪原は、いつまで行っても平坦で、何の起伏もない。家もなければ立木もなく、薄鼠のただ一色に見える雪の原は、ところどころ朔風(さくふう)に傷つけられて、黒い地肌が出ている。雪にまみれ掻き乱された枯草がその地肌を蔽(おお)っていて、夏の荒涼とした広野

文字遣い

新字新仮名

初出

黒河への旅「文藝春秋 第二十三巻第二号」1945(昭和20)年2月1日<br>陸の大洋「文藝春秋 第二十三巻第二号」1945(昭和20)年2月1日<br>草原の王者「財界 第十巻第四号」1945(昭和20)年10月1日

底本

  • 中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2002(平成14)年12月13日