かいなべのうた
貝鍋の歌

冒頭文

北海に愚魚あり その名をほっけという肉は白きこと雪片を欺(あざむ)き 味はうすきこと太虚(たいきょ)に似たり 一片の三石(みついし)の昆布一滴のうすくちの醤油(しょうゆ)真白なる豆腐にわずかなる緑を加う くつくつと貝鍋は煮え 夜は更けて味いよいよ新たなり まだ子供たちが幼かった頃、うまくだまして、早く寝つかせた夜は、奥の六畳の長火鉢で、よく貝鍋をつついた。 住みついてみると、北海道の冬は

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1961(昭和36)年4月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日