かんざしをさしたへび
簪を挿した蛇

冒頭文

石川県の西のはずれ、福井県との境近くに大聖寺(だいしょうじ)という町がある。其処(そこ)に錦城(きんじょう)という小学校があって、その学校で私は六年間の小学校生活を卒(お)えた。たしか尋常六年の時に、明治天皇が崩御(ほうぎょ)されたように記憶しているので、私の小学校時代は、明治の末期に当るわけである。 この町は、子爵(ししゃく)の方(ほう)の前田家(まえだけ)の旧城下町であって、その頃の

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1946(昭和21)年12月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日