ガラスをやぶるもの
硝子を破る者

冒頭文

汽車はあいかわらず満員である。 吹雪で遅れ遅れするので、駅には前からの乗客が溜(たま)って益々混雑をひどくするらしい。 やっと窓際の席がとれて、珍しいことと喜んだのも束(つか)の間(ま)、硝子が破れているので、雪を雑(まじ)えた零下十度の風が遠慮なく吹き込んで来る。とてもたまったものではない。前に坐(すわ)っている五十余りの闇(やみ)商人らしい男が、風呂敷(ふろしき)を窓にあて

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日