くたにやき
九谷焼

冒頭文

震災で失ったものの中で、この頃になって、惜しいと思い出したものは九谷焼である。父が心懸(こころが)けて集めたもので、古い時代のいわゆる古九谷(こくたに)と呼ばれている高価な品ではないのだが、現今大量生産でどんどん造り出している今の九谷焼と、古い時代の「真正の九谷焼」との連絡を見るために、丁度都合のよい標本であったことと、自分には父を偲(しの)ぶよすがとなる品であったので、時がたつにつれてしみじみ惜

文字遣い

新字新仮名

初出

「理学部会誌」1924(大正13)年11月21日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日