しどうしゃとしてのてらだせんせい
指導者としての寺田先生

冒頭文

先生の臨終の席に御別(おわか)れして、激しい心の動揺に圧(お)されながらも、私はやむをえぬ事情のために、その晩の夜行で帰家の途に就いた。同じ汽車で小宮(こみや)さんも仙台へ帰られたので、途中色々先生の追想を御伺いする機会を与えられた。三十年の心の友を失われた小宮さんは、ひどく力を落された御(ご)様子でボツリボツリと思い出を語られた。常磐線(じょうばんせん)の暗い車窓を眺めながら、静かに語り出される

文字遣い

新字新仮名

初出

「思想」1936(昭和11)年3月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日