ゆきをつくるはなし
雪を作る話

冒頭文

これは本当に天然に見られるあの美麗繊細極まる雪の結晶を実験室の中で人工で作る話である。零下三十度の低温室の中で、六華(ろっか)の雪の結晶を作って顕微鏡で覗(のぞ)き暮す生活は、残暑の苦熱に悩まされる人々には羨(うらや)ましく思われることかも知れない。 雪の結晶の研究を始めたのはもう五年も前の話であるが、あり合せの顕微鏡を廊下の吹き晒(さら)しの所へ持ち出して、初めて完全な結晶を覗いて見た

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京朝日新聞」1936(昭和11)年9月17日、18日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日