アイえきのいちや
I駅の一夜

冒頭文

まだ戦争中の話である。 三月十日の未明、本所(ほんじょ)深川(ふかがわ)を焼いたあの帝都空襲の余波を受けて、盛岡(もりおか)の一部にも火災が起きた。丁度その時刻には、私は何も知らずに、連絡船の中でぐっすり寝ていた。 青森に着いても何事も知らされず、いつものように乗客は先を争って汽車に乗ろうとし、それを制止する駅員の声がとぎれとぎれに雑沓(ざっとう)の中に響く、普段通りの連絡駅風

文字遣い

新字新仮名

初出

「世界」1946(昭和21)年2月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日