イグアノドンのうた ――おとなのためのどうわ―― |
イグアノドンの唄 ――大人のための童話―― |
冒頭文
カインの末裔(まつえい)の土地 終戦の年の北海道は、十何年ぶりの冷害に見舞われ、米は五分作か六分作という惨めさであった。豊作でさえ米の足りない北海道のことであるから、この年の冬は、誰(だれ)も彼も皆深刻な食糧危機におびやかされた。 それにこの冬は、例年にない珍しい大雪であった。毎日のように、暗い空からは、とめどもなく粉雪が降りつづき、それが人々の生活の上に重苦しくおおいかぶさってい
文字遣い
新字新仮名
初出
「文藝春秋」1952(昭和27)年4月1日
底本
- 中谷宇吉郎随筆集
- 岩波文庫、岩波書店
- 1988(昭和63)年9月16日