びしょくななじゅうねんのたいけん
美食七十年の体験

冒頭文

美味談も考えてみるとなかなか容易ではない。前に木下の『美味求真』、大谷光瑞(こうずい)の『食』、村井弦斎(げんさい)の『食道楽』、波多野承五郎の『食味の真髄を探る』、大河内正敏の『味覚』など、それぞれ一家の言(げん)を表わしてはいるものの、実際、美味問題になると、いずれも表わし得たりと学ぶに足るほどのものではない。 おのおの美味道楽の体験に貧困が窺(うかが)えて敬読に価しない恨みがある。

文字遣い

新字新仮名

初出

「芸術新潮」1954(昭和29)年

底本

  • 魯山人の美食手帖
  • グルメ文庫、角川春樹事務所
  • 2008(平成20)年4月18日