あゆのししょくじだい |
鮎の試食時代 |
冒頭文
あゆがうまいという話は、味覚にあこがれを持ちながら、自由に食うことのできない貧乏書生などにとっては、絶えざる憧憬(しょうけい)の的である。わたしも青年の頃、ご多分に漏(も)れず、あゆを心ゆくまで食いたいと夢にまでみた時代があった。この夢を実現したのは二十四、五歳のころであったろうか。もちろんそれまでにあゆを全く口にしなかったわけではない。だが、あゆ通の喜ぶ上等のあゆによって、あゆの美味をテストする
文字遣い
新字新仮名
初出
「星岡」1935(昭和10)年
底本
- 魯山人の美食手帖
- グルメ文庫、角川春樹事務所
- 2008(平成20)年4月18日