あんごしんにほんふどき 02 だいいっかい たかちほにふゆさめふれり≪みやざきけんのまき≫
安吾新日本風土記 02 第一回 高千穂に冬雨ふれり≪宮崎県の巻≫

冒頭文

私たちが羽田をたつ日、東京は濃霧であった。私が東京で経験した最も深い霧。半マイルの視界がないと飛行機の離着陸ができないそうで、八時にでるはずの福岡直行便が十二時ちかくようやく飛びたった。しかし乗客一同出発をうながしたり怒ったりする者が一人もいなかったのはイノチの問題だからやむをえない。むろん私も怒らない。待合室で待っていられる私たちはむしろ幸福なのだ。着陸できない飛行機が何時間も上空を旋回している

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論 第七〇年第二号」中央公論社、1955(昭和30)年2月1日

底本

  • 坂口安吾全集 15
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年10月20日