むかしとうとく にせんろっぴゃくねんをむかえて
昔尊く 二千六百年を迎えて

冒頭文

もう丁度、五十年の昔になりましょうかしら、たしか、私の十九歳の頃のことでした。明治二十五、六年の、忘れもしない四月二十一日の夜明方、隣の雑貨屋さんから火が出まして、私どもの家もおかげで半焼のうき目にあったのでした。その頃私たちは四条通りの非常に賑やかな通りにいまして、お茶々の商売を致してましたのです。 何でもランプを落としたのが火の始まりとかで、夜明けといってもまだ夜中のことでした。火事

文字遣い

新字新仮名

初出

「美術殿」1940(昭和15)年1月号

底本

  • 青帛の仙女
  • 同朋舎出版
  • 1996(平成8)年4月5日