こっかいとしょかんのまどから
国会図書館の窓から

冒頭文

日射しの暖かい南向きの窓に、開くともなしに、美しい装釘の本をひもどく、といった、読書のよろこび、「閑」というこころもちの深い厳しさ、こんな世界から、だんだん遠ざかりつつある。 どこへ行くのであろう。時々こんなこころもちになる。私のいる部署は実に五百人の人々が、タイプライターの機銃のような音、電話、交渉、書類の交錯の中で朝八時半から五時の夕暮まで、一分の暇もなしに働きつづけているのである。

文字遣い

新字新仮名

初出

「ブックス」1949(昭和24)年3月号

底本

  • 中井正一全集 第四巻 文化と集団の論理
  • 美術出版社
  • 1981(昭和56)年5月25日