さんじゅうねんまえのしまだしょうなん
三十年前の島田沼南

冒頭文

一 島田沼南(しまだしょうなん)は大政治家として葬られた。清廉潔白百年稀(まれ)に見る君子人として世を挙げて哀悼された。棺を蓋(おお)うて定まる批評は燦爛(さんらん)たる勲章よりもヨリ以上に沼南の一生の政治的功績を顕揚するに足るものがあった。 沼南には最近十四、五年間会った事がない。それ以前とて会えば寒暄(かんけん)を叙する位の面識で、私邸を訪問したのも二、三度しかなかった。シ

文字遣い

新字新仮名

初出

「読売新聞」1923(大正12)年11月30日~12月6日号

底本

  • 新編 思い出す人々
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1994(平成6)年2月16日