さいごのおおすぎ
最後の大杉

冒頭文

一 大杉(おおすぎ)とは親友という関係じゃない。が、最後の一と月を同じ番地で暮したのは何かの因縁であろう。大杉が初めて来たのは赤旗事件の監房生活から出獄して間もなくだった。淀橋(よどばし)へ移転してから家が近くなったので頻繁(ひんぱん)に来た。思想上の話もしたし、社会主義の話もしたが、肝胆相照らしたというわけでもないから多くは文壇や世間の噂(うわさ)ばなしだった。 大杉は興味が

文字遣い

新字新仮名

初出

「読売新聞」1923(大正12)年10月2日~6日、8日

底本

  • 新編 思い出す人々
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1994(平成6)年2月16日