おもいで
思ひ出

冒頭文

一 まだ四条通りが、今のやうに電車が通つたり、道巾が取りひろげられなかつた頃、母と姉と私と三人で、今井八方堂と云ふ道具店の前にあたる、今の万養軒の処で葉茶屋をして居りました。 父は私の生れる前になくなつて、それ以来私は男のやうな気性の母親の手ひとつで育てられました。さう云ふ私には父親の愛と云ふものを知らない、母親がつまり、女らしくあるよりも、父親の役をして女らしくあるべき、母親の役

文字遣い

新字旧仮名

初出

「都市と藝術 198号」1930(昭和5)年

底本

  • 青眉抄その後
  • 求龍堂
  • 1986(昭和61)年1月15日